「がむしゃらに頑張っている人に光が当たる社会を」。過疎のまちで1杯300円のコーヒーを売り続けるSpaice coffee紺野雄平さんの「夢は叶う」を体現する生き方。

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2019年4月27日(土)~30日(火)に開催された、『LOCAL WRITE#08いすみ』の参加者によるインタビュー原稿を掲載しています。
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written by 穂積奈々

「将来の夢はなんですか?」よく幼いころに聞かれた質問。
みなさんはどのように答えていましたか?

小さいころは思いもしなかった、夢を今、生きている方がいます。
千葉県の房総半島に位置する勝浦市。太平洋に面した漁港の近くでは400年以上続く朝市が賑わいを見せます。すこし奥に入ると、懐かしい商店街の町並み。その一角で移動式の自転車屋台コーヒー屋を営んでいる紺野雄平さん。

2017年1月に出版された書籍『「小商い」で自由にくらす~房総いすみのDIYな働き方(磯木淳寛著)』にて、紹介されていたころは、大学を卒業して屋台を始めたばかりの姿が載っていました。「こんな若い人が、自転車?コーヒー屋?地方で?」と驚きと共に、本の中でも特に印象に残っていたのを覚えています。

大学新卒で、勝浦という過疎化の進む町で、一人で、コーヒーを売って生きている。
その裏には、この場を通して夢を叶える人が増えていってほしい。そんな想いが込められていました。
5年目を迎えたSpaice coffeeには、未来を生きるこれからの人たちへの希望と可能性が詰まっていました。

日常にちょっとした刺激を、Spaice coffee

「Spaice coffee」と手書きのロゴが描かれたコーヒーカップ。

「こんちは!今日はいつものにしますか?」

コーヒーの苦さの中に、どこかいろんな国を旅するようなスパイスを感じられるメニューは、最近の新作とのこと。数種類のスパイスが入った今まで飲んだことのないような、すこし刺激的な味にワクワクしながら、始まった取材でした。

取材時には、いつもの常連さんや、近くの大学の学生さんなど、たくさんの人がコーヒーを楽しんでいました。

中と外とも言えない場所。例えばNPO法人のお店の前や、コワーキングスペースの前など、曜日ごとに場所を移動しながらコーヒーを販売しているのは、紺野雄平さん。

お客さんたちとの会話をしている間に、手際よく丁寧につくられていくコーヒー。

お客さんたちにはいつもなんて呼ばれているんですか?という質問を投げかけてみると…

「コーヒー屋さん」とか、「店長」ですかね。「マスター」って呼ばれるときもあるけど、マスター(笑)って感じっすかね。

呼び名の愛称からすでに、紺野さんの存在がお客さんに親しまれていることを感じます。

始めてからの4年間は、地道だった

Spaice coffeeは2019年4月時点で5年目となります。始めたときはまだ大学を卒業したばかりで、ママチャリからスタートしたというから驚きです。

『「小商い」で自由にくらす』で磯木さんに取材をしてもらった頃(2016年秋)も、一時期食っていけなかったときがあって。Spaice coffeeだけでちゃんと飯を食っていけるようにするにはどうすればいいかなと必死に考えました。

日々試行錯誤を重ね、4年間の歳月で自然と良い方向に変わっていったのだそうです。それはコーヒーの作り方から始まり、おつりの渡し方から、お客さんとのつながりや関係性まで。その結果、今は収入の桁も変わり、イベントに出張でお店を出す機会も増えました。

4年かけてここまでやってきた。関係性ができるまで、自分の場合はこの地味な事の繰り返しでした。

地道に、けど確実に変化していく。ついついすぐに結果を出そうと思ってしまうわたしもなんだかホッと元気づけられた瞬間でした。

絵本から出てきたような世界を日常に

変わったのはそれだけではありません。ボーラーハットに、丸眼鏡。ひげをこさえて、いかにもコーヒーを入れるマスターって感じです。「書籍に掲載されていた2年前は普通のおしゃれな青年って感じでしたけど…」そう伝えると、予想外の答えが返ってきました。

みんなの頭の中にある、コーヒー屋さん像を再現したんです。だって見たことあります?こういうコーヒー屋さんって。実際にいないんですよ。

と、コーヒーを入れながら笑う紺野さん。

そう言われてみると、、、確かに。妙に納得してしまいました。

意外性というか、絵本の中の世界を再現したかったというか、みんな頭の中にイメージはあるけど実際にいないっていう。そういうのをリアルに作っていけたら結構面白いんじゃないかなって。絵本の世界がリアルになるって、わくわくする。それが出来たら面白いかな。

Spaice coffeeがつくる場所の雰囲気は、紺野さんのそんな想いが込められていました。

こういうのもありなんだ、を伝えたい

そして、なによりも驚いたのはコーヒーを買っていくだけではなくて、そこに何時間も滞在したり、おしゃべりをする若者たちがいたことでした。

「今、コーヒーにハマってるんすよ」。この日、コーヒーを2杯も買っていた国際武道大学の学生ふたり組。紺野さんも、卒業生の一人なので直接ではないですが後輩にあたります。彼らがコーヒーを待っている最中、紺野さんについて聞いてみると、こんなことを話してくれました。

“体育大学生って、ずっーと部活をやっていて。将来進路も、警察官とか、教師とか、わりと決まった路線で。こういう感じで自由にやってるのとか見ると、すごいなと思いますね。こういうのもありだなって、ある意味視野が広がるというか。”

「僕が大学生のときに感じていたのがまさにそういう気持ちだったんで。」と紺野さん。

進路を決めるときもたとえば「今まで柔道をやってきたから、それを生かせるところを」と、自分のやってきたことだけで考えてしまう。それは仕方がないことでもあると思うんですけど、実は自分の知らない世界は広くて、選択肢も可能性もたくさんあるってことを知ってもらえたらいいですね。

家でも、学校でもない場所

コーヒーはひとつのツールでしかない。わくわくするような、人と人がつながれる刺激のある場所にしたい。そんな想いが込められたSpaice coffee。実際、さまざまな人たちの居場所になっていました。

取材をする際に、自然にこんなにたくさんの若者たちが集まっていました。

「今までで、印象に残っている一日はありますか?」と訪ねてみると…

そうですね。学生が「いってきます」って言ってくれることがたまにあって。授業の合間とかに遊びにきてくれて、またそれから授業に戻っていくんですけど。コーヒー飲むとか関係なく。そのまま行ってきます、みたいな。そんなシーンを見ると、嬉しいですね。ここが彼らにとって、家でも学校でもない居場所になってるっていうか。

この日も「コーヒーは飲めないんですけど…、毎日通ってます!」という中学生の男の子が来ていました。今回の取材の写真の一部を撮ってくれたのも、そのあと自転車で通りかかった、カメラが好きな大学生でした。なんとも不思議に、かつ自然につながっていく、確かにそんな場所になっていました。

子どものころの夢はサッカー選手だった

移動式の自転車屋台でコーヒーを売りながら、さまざまな生き方を伝えるきっかけづくりをしている紺野さんですが、「子どものころの将来の夢ってなんだったの?」と、なにげない興味から聞いた質問の答えが、この活動をしている紺野さんの強い原動力になっていました。

子どものころの夢はサッカー選手でしたね。高校までサッカーやってて、僕の中ではだれよりも練習したと思ってたんですけど。諦めざるをえなかったというか。初めての挫折でした。

それから行きたかった大学への合格も叶わず、がむしゃらに頑張ったけど、結果が出なかったといいます。

そう、だから、きっとその当時僕もがむしゃらにやってたんですけど。けどがむしゃらにやってるよりも考えて練習する方が効率いいし、うまくなるし夢には近づくんですけど、がむしゃらにやっているやつらのかっこよさってあると思っているんです。

そうやって、真面目な表情で、言葉をひとつずつ絞りだすように話してくれました。

めちゃくちゃがむしゃらに頑張ってるやつってかっこいいと思うんですよ、僕は。でも結果が出ない、みたいな。僕もどっちかというとそういうタイプの人間なので。そこに光を当てたいっていう想いはあるかもしれない。

人がいない町で。過疎地域で。そんなところで必死になって300円のコーヒーをただひたすら売り続けるみたいな…(笑)。そんなところに光が当たったら、今がむしゃらに頑張っている子たちも、「ああ、自分ももうちょっとがむしゃらに頑張ったら光が当たることもあるのかな」って思えるかもしれないし。

そう話し終えると「なんか、すごい泣きそうになっちゃった(笑)」と紺野さん。

ああ、この活動のベースに、こういう強い想いがあったんだ、と。過去の経験が、紺野さんがSpaice coffeeを続けていく原動力になっていて、だからこそ、この真剣でまっすぐなメッセージが多くの人に伝わり、人の心を動かすのだと感じました。

つなぐ、仲間、がテーマの会社「DOCKS」

そして、5年目となる今、会社をつくるという新しい動きが出ています。

今考えている会社の名前は、「DOCKS」。これは、船やコンセントのつなぎ目としての繋ぐという意味があったり、仲間に呼びかけるときの「Hey Dog!」という英語のスラングからきてるように、仲間・つながりという意味を持った名前だそう。まさにぴったりですね。

DOCKSの使命は、なにかしたいとか、やりたいことをやっている人たちを増やすことです。そういう人たちのあつまりをつくること。そんなひとたちの輪を増やしていくというか。

現在は、アパレルやカメラなど、それぞれ得意分野をもっている仲間たちで、タッグを組み活動しているのだそう。それぞれが独立して活動していく中で、お互いにしたいこと、出来ることやイベントの情報を共有したりといったミーティングを重ねています。

ウェットスーツ工場から出た端材で作られたコーヒーのスリーブ。

現在は、アパレル関係の仕事をしている仲間の一人と一緒にSpaice coffeeがコラボした商品をつくる話がでていたり、実際にウェットスーツの端材で作ったコーヒーのスリーブは販売が始まるのだそう。

仲間の一人は将来アパレルブランドを立あげるのが夢で、お互いを応援しあいながら、コラボをして相乗効果で高めあい、支えあうことを目標にしています。

夢のシェア

「夢のシェア」。
なんとも、素敵な響きの言葉です。紺野さんが今進めている「やりたいことをして生きているひとたちの輪を広げていくこと」は同時に、夢のシェアでもあるといいます。

俺、あれもやりたい、これもやりたいっていうのがいっぱいあるんですけど、結局動けないし自分が出来る範囲って、そんなに多くないんですよ。ってなったときに、やりたい人をまわりにいっぱい作ればいいんだ!ってひらめいたんです。

この発想にはびっくりしました。「夢って、なんだか一人でつかんでいくもので、いろいろ欲張ったら叶わない」。そんなイメージを持っていた自分にとって、斬新な発想でした。

例えば自分は、ゲストハウスもやってみたいんですけど。今はコーヒーの仕事でいっぱいいっぱいで、出来ない。けどゲストハウスをやりたい仲間がいて、自分がそれに関われたら、夢が叶うな。って。

そうか、自分が全部やらなくても、だれかと一緒にやることで夢が叶うんだな。
「一人一人の夢の輪が誰かと重なっていくイメージですかね?」と聞くと、そうそう!と話のイメージが広がっていきます。

僕のコーヒーの輪が、だれかの写真の輪と重なって、アパレルの輪と重なって、重なるところもあれば重ならないこともある。そういうのってちょっと四次元的だと思うんですよ。その重なったところで起きることって、だれも予想できなくて。もしかしたら誰もみたことのないものが出来るかもしれないじゃないですか。

そう話す紺野さんの話を聞いて、わたしはなんだか未来がとっても楽しくなりました。そして、この話を聞いていたのはわたしだけではなく、そこにいた若者たちも。夢のシェアが、今まさに始まっている!と感じてしまう状況でした。

長丁場の取材を、ともに過ごしてくれたみんなと写真を撮りました。

「あなたの夢はなんですか?」
もしかしたら、諦めなくても叶う夢があるかもしれません。1つの夢だけでなく、夢がたくさんあっても良い。叶えるのが難しい夢もあれば、簡単に叶う夢もある。誰かとだったら叶う夢もあるかもしれません。

コーヒーを片手に、あなたの「夢」を語らってみてはいかがでしょう?
その時点で、もうすでに叶い始めているはずです。

written by 穂積奈々(Local write#08いすみ参加者)
photo by 吉清汐音,穂積奈々

◆開催パートナー・地域の募集◆
『ローカルライト』は、3泊4日で行うインタビューとライティングのワークショップです。参加者はインタビューとライティングについて学び、まちに触れ、人を知り、仲間を作り、最終的に原稿を仕上げていきます。これまでに、関東、関西、北陸、九州(2019/6月時点)で開催してきました。
まちにとっては取材対象とまちそのものを公報し、開催地と縁のある人を増やすという側面があり、参加者にとっては地域での暮らしや仕事を知り、書き手としてのスキルを育むという側面があります。
たとえば、「外部の目線で地域を発信したい」「webマガジンで公報したい」「地域の刊行物を作りたい」「地域の食に光を当てたい」というニーズがあり、開催に興味をお持ちの方は、ぜひこちらからお問い合わせください。※半日からのワークショップも可能です。主催される地域の方の参加ももちろんOKです。

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