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2019年4月27日(土)~30日(火)に開催された、『LOCAL WRITE#08いすみ』の参加者によるインタビュー原稿を掲載しています。
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written by 山下実紗
日々、都心で会社員として生きていると、そもそも「自分らしさ」ってなんだろう、「好きなこと」を仕事にするのはどうしたらいいのだろう…、そう考えてしまうこともあるのではないでしょうか。
東京から電車で2時間、千葉県いすみ市。向かう途中に車窓から見える、緑豊かな自然に心が安らぎます。マクロビ、パーマカルチャー、小商い…そんなイメージのあるいすみ市には、「自分らしく」生きている人たちがたくさんいます。
今回は、そんないすみ市で「自分らしさ」を認識しながら、一点ものの洋服の制作とリメイクの仕事をおこなっている松永さやかさんにお話を伺います。
彼女からは、世の中や自分の中にある様々な側面をしっかり見つめながらも、一歩ずつ進んでいくことの大切さと秘訣を教えてもらいました。
「ナチュラルかわいい」へ
松永さやかさんのアパレルブランド「sayasaya」。取材前にHPを見てみると、そこにある洋服は、子供服から大人用のものまで、刺繍とパッチワークが巧みに使われたナチュラルテイストの洋服が載っていました。どれも自然の中で着たら似合いそうなデザインのものばかり。
取材先に到着すると、洋服のイメージ通りの柔らかい笑顔で取材チーム一同を迎えてくれました。
レトロな黄色の生地に、青色の肩紐。ユニークな色使いと柄の組み合わせ。ちょっとした遊び心が垣間見える服を身にまとっていました。
「この肩ひもは、もともと婦人服のセットアップだったものなんですよ」
取材当日に着ていた洋服は、まさに松永さんが制作したもの。
「洋服のイメージは『ナチュラル系さやちゃん』とか言われたりするけれど、私、本当は頑固だし、気強いし…こんなかわいい服作っててもいいのかなあ…ってよく思います。これからは、もっと面白いと思ってもらえる洋服を作っていきたい、と考えています」。
ブランド名である「syasaya」の由来は、オノマトペが好きだから。そう笑う松永さんは、昔から自分のブランドを持つのが夢でした。
「sayasayaは普段は見えない、自分のフェミニンな一面が表されているのかも」
「sayasaya」ができるまでを追っていきます。
大量生産、大量消費への疑問
松永さんは和歌山県出身。もともと絵を描くのが好きだったこともあり、地元の高校卒業後、ファッションデザインを大学で学びます。卒業後はイギリスに2年間留学し、帰国後、子ども服メーカーに就職してデザインを担当。
もともと自分のブランドを持ちたいと考えていたので、生産管理のできる大人服メーカー、そして国産メーカーへの転職など、業界でのキャリアを計画的に重ねていきます。
様々な角度からアパレル業界を見つめる中で松永さんが疑問に思ったのは、大量生産・大量消費の現実。大量生産によって企業は生産コストを下げることが可能となり、消費者により低価格で商品を提供することができるようになりました。
しかし一方で、大量生産・大量消費によって、かつて盛んだった国内の縫製工場も次第にシャッターが降り、斜陽産業となりました。
また、消費者の購買意欲を掻き立てるため、頻繁にモデルチェンジを行います。そのような中では、ものを大切にすることよりも消費することに目が向けられがちです。次第に松永さんは、捨てられないもの、長く使われるものを作りたいと考えるようになりました。
そして、結婚して少し経ってから会社を退職した松永さんに転機が訪れます。それは、地方への移住でした。
旦那さんと、いすみ市に「引越し」
結婚後は旦那さんと都内で暮らしていましたが、ある時田舎暮らしに憧れていた旦那さんが地方への移住を考え始めました。その候補先に上がっていたのが、昔からの友人が住んでいた、千葉県いすみ市。
松永さんはもともと和歌山県の出身だったこともあり、都内での生活が新鮮で、東京を離れたくなかったと言います。ただ、下見のために旦那さんと一緒に訪れたいすみ市で、友人をはじめとし、自分で生業をつくっている多くのプレイヤーとの出会いがありました。
いすみ市は小商いで生活をする人たちが多くいる土地です。ケーキ屋さんを自分で開いている人がいるなど、「すでに活躍している人たちが、ピカピカに輝いて見えました」と当時を振り返る松永さん。
「移住というと重たく感じるけど、引越しのような軽い感覚」でいすみ市に住むようになったと言います。彼らの在り方が新生活への一歩を後押ししてくれ、いすみ市での生活を決めたようです。
力まず、自然な流れで独立
いすみ市に移住後、自分のペースで洋服の制作活動をしていましたが、友人から展示会やマーケット出店への誘いを受け、それを機に展示や販売を始めました。
「やりたいことをやっていたら独立という形になりました」と意気込むことなく、自然に独立したそう。
すぐ隣で地域おこし協力隊としてチャレンジする旦那さんの存在も大きかったようですが、いすみという土地では、都内と比べて家賃が安いことや、小商いの先輩たちに色々と相談できる環境のおかげで無理なく好きなことに取り組めたようです。
東京でもし独立していたら?と聞くと、「うーん、想像できません」と一言。アパレル業界での働き方しか知らなかったこともあり、季節ごとに新作を出していくアパレル業界のルールに沿って「もみくちゃになってしまっていたかも…」と考えます。
様々な分野で活躍している人たちと一緒に働く環境は、独自のルールとペースをつくって働くことができるのかもしれません。
モノの値段と葛藤
松永さんが作る「sayasaya」のデザインは、曲線のある、ゆったりとしたフォルムが多く、誰の身体にも馴染むようにできています。体型にコンプレックスのある方も自分らしく着こなせるデザインはsayasayaらしさでもあります。
もともと「sayasaya」で作っている洋服は、生地屋で新たに生地を買い、それに刺繍を仕立てて染め、オリジナルとして販売していました。しかし、最近は、洋服づくりを既成の布によるリメイクの方向に寄せていっていると言います。
そこには、「いつまで大量に新しいものを作り続けるんだろう…」というアパレル業界で働いていた時から感じている疑問と、手仕事と素材を合わせたコスト意識があります。
手仕事が少なくなっている時代。つくる工程を想像するのは、普段手仕事に馴染みがないと難しく感じます。
「sayasaya」はパターンから引いて、大体1週間ほどかかるプロの手仕事。「昔のものって、いい素材のものが多いんですよ」。当日、ご自身が着ていた服を触りながら松永さんは話します。既にあるものを使い、素材の価格を下げることで、より手仕事への時間にコストを使うことができます。
「ものづくりをしたことがある人は、時間をかけて作っていることに気づいて、声をかけてくれます」
複数の洋服をほどき、さまざまな柄を組み合わせて、夢中になってコラージュをつくっています。どんなデザインになるかは、松永さんの頭の中にあります。
仕事イコール、遊んでいるみたい
「遊びながら、楽しみながら作ったものが、お客さんに届けばいい」という松永さん。服を作る時の話を聞くと、本当に洋服を作るのが好きなのが伝わってきます。
そんな松永さんが苦手とするのが、SNSでの発信やオンラインでの販売。対面でオーダーを受けて、「この人のために」と考えて作るのが楽しいと言います。以前は、ネットの情報は無限だと思っていましたが、その限界を感じています。
「実際に会って、話してデザインする方が、ぐっと広がる可能性がある」と自信を持って話している姿が印象的でした。
「sayasaya」の洋服を買う人は、「商品」としての洋服が欲しいのではなく、自分の好みや、思い出を松永さんに共有することで「sayasaya」が大切にしている「生活や、思い出を羽織りたい」のかもしれないな、と想像しました。
また、洋服を作るのに、出たハギレもとっておくと言います。
「自分が着ていた洋服の一部を誰かがポーチなどで持っていたら、嬉しいんじゃないかなと思って」
かつて洋服だった素材が、あちらこちらで循環していることを想像すると、楽しい気持ちになります。「今後、sayasayaをどんなブランドにしていきたいですか?」という質問に対しては、数字の話をしつつも「堅苦しく考えないでやれた方がいいなあ」と一言。
軽やかに生きて見える、松永さんの素の一面が見れたような気がしました。
手仕事を繋げるアトリエ
「sayasaya」は、近々、店舗を持つ予定だと言います。場所は、もともと郵便局だった建物。建築士の旦那さんの一級建築士事務所も併設する予定です。
その建物の裏には、偶然にもつい半年前に閉まってしまった縫製工場があるそうです。いすみ市にも、かつては縫製工場が数多くあったと言います。
「周りには工場に通っていた、縫製の手仕事ができる人がまだ住んでいるはず」。そう考えた松永さんは、今後かつて工場で手仕事をしていた人たちと、「sayasaya」のアトリエをつなげていきたいと意気込みます。
「今ならまだ間に合うんじゃないかな、と思って」
そう話しながら、これからの出会いにワクワクしている様子が伝わってきました。
ファストファッションと手仕事
今回の取材で、松永さんは、「sayasaya」の洋服をファストファッションと合わせて着てもらってもいいんです、と両者を受け止めていました。
自分が使っているもの、着ているものは誰がつくったものであるか知っていること。それは、使っている人自身の生活が「豊か」になることに繋がるはずです。ファストファッションのズボンや上着でも、松永さんにコラージュや刺繍を入れてリメイクしてもらったら一点ものになり、長く大切に使おうという気持ちになります。
大量生産・大量消費に対する疑問は問いかけつつも、それらを完全に否定するのではなく、長く大事に使ってもらえる洋服を作ることは、松永さんの表現なのではないかと感じました。
「もっと加速していきたい」と宣言していた松永さんと「sayasaya」は、まだまだこれからも進化を遂げます。へアバンドや、ポーチ、道具入れなど、オーダーメイドの1点も販売しています。
「移住」、「独立」など、言葉にすると、なんだか勇気がいる行動のように見えますが、松永さんは軽やかに動くことで体現してきました。
今回、「仕事」や「人生」について、モヤモヤしている時に松永さんに出会い、インタビューをしましたが、インタビューが終わった後、ふっと気持ちが軽くなった気がしました。
人生において、重要な決断をする時、思わず立ち止まって「何が正解か」を探したくなります。そんな時は、松永さんが洋服をリメイクするように、目の前にあるものを一つずつコラージュしていくのはどうでしょうか。
気づいたら、「sayasaya」の服のように、あなたの物語を添えた、世界に1つしかない作品が出来上がっているのかもしれません。
written by 山下実紗(Local write#08いすみ参加者)
interview photo by 磯木淳寛
◆開催パートナー・地域の募集◆
『ローカルライト』は、3泊4日で行うインタビューとライティングのワークショップです。参加者はインタビューとライティングについて学び、まちに触れ、人を知り、仲間を作り、最終的に原稿を仕上げていきます。これまでに、関東、関西、北陸、九州(2019/6月時点)で開催してきました。
まちにとっては取材対象とまちそのものを公報し、開催地と縁のある人を増やすという側面があり、参加者にとっては地域での暮らしや仕事を知り、書き手としてのスキルを育むという側面があります。
たとえば、「外部の目線で地域を発信したい」「webマガジンで公報したい」「地域の刊行物を作りたい」「地域の食に光を当てたい」というニーズがあり、開催に興味をお持ちの方は、ぜひこちらからお問い合わせください。※半日からのワークショップも可能です。主催される地域の方の参加ももちろんOKです。
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次回の開催等をこちらのfacebookページでも告知しますので、どうぞご確認ください。