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2019年4月27日(土)~30日(火)に開催された、『LOCAL WRITE#08いすみ』の参加者によるインタビュー原稿を掲載しています。
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written by 斎藤美冬
大量生産、大量消費、そして大量廃棄の現実に疑問を感じたことはありませんか?
デザインから流通まで、服飾業界のいまを知り尽くした松永さやかさんが立ち上げた独立ブランド 『sayasaya』(https://www.facebook.com/sayasaya3838/)の服づくりはその流れにのらないためのひとつの試みでもあります。
さやかさんが手がけるデザインは、新しいものばかり作り古くなったら捨てるサイクルの外にあり、モノの価値を蘇らせるリサイクルともアップサイクルとも違う、誰も試したことのない解答です。
プロの手仕事が生きる一点ものの洋服は、身体へのなじみ方が違います。さやかさんの取り組みを知れば、お気に入りの服を長く着るために、そして自分が着られなくなっても次の人に形を変えて手渡すために「オーダーメイドの服」の良さを一度体験してみたくなるかも。
手軽な既製服の洪水の中で
今日すれ違った人のうち何人が手作りの服を着ていたか、ふと考えると 限りなくゼロに近く、それが当たり前であることに気づかされます。
いずれ終わると言われながら、カジュアルな既製服はどこまで安くなるんだろう?という状況が続いています。その影にある途上国の低賃金労働というひずみも無視できません。
『sayasaya』のデザインに多い手刺繍ですが、今はほとんどが中国・ベトナム・インドで行われていて、日本では刺繍ができるプロフェッショナルに仕事がないのです。
業界を席巻するファストファッションの時代に、好きな服作りを仕事にして生きて行こうと志すのはなかなかの覚悟にみえますが、「特別なことをやっているとは思っていない、自分の作りたい服を作っている。好きなことやりたいことを仕事にしているだけ」ということばからは、重苦しい気負いは感じられません。
自分のブランドを立ち上げる
大阪から1時間の距離にある和歌山県の町で高校卒業まで過ごし、絵を描くのが好きだったさやかさんは芸術系の学部に進学、ファッションデザインを学びます。
なぜ絵画や彫刻のようなアートではなく服飾デザインを選んだのかといえば、おしゃれが楽しい年頃、身につけられるものでモノづくりをしたかったから。
大学卒業後は、イギリスに2年間留学、帰国してデザイナーとして神戸で就職し、3年勤めたのちに転職、生産管理を担当する仕事を選びます。そこで扱ったのは中国で生産された製品でした。さらに次の転職先は日本で作られるものを扱う会社。
当時から自分のブランドを立ち上げたいという目標を明確に持ちながら、必要なキャリアを着実に重ね、結婚を機に独立します。
「キラキラ」ではなく「ピカピカ」
その頃、房総半島の千葉県いすみ市に移住していた友人夫婦を訪れる機会があり、二人が「ピカピカして見えた」そうです。
都心の職場に仕事を持ち、東京の良さや都会の楽しさも知りながら、あえて田舎に移住するという選択肢はなかったにも関わらず、夫のキャリアの転機が後押しとなり、4年前にはいすみ市に腰を据えます。
「移住というというより引っ越しかな?」という言葉はいかにも自然体です。
いすみ市でも地元和歌山県と同じく国産レモンを作っていること、和歌山県の鯨漁師が房総沖まで漁に来ていた頃から港町大原に住み着いた人たちもいるということ。偶然選んだ土地に不思議なつながりを感じたそうです。
今は自宅で建築士として開業した夫の仕事を手伝いつつ、作品作りの時間を確保することが課題、思ったように作りためられないというジレンマも。
手作り作家の友人に聞くと、作る日を決めている人、寝る前の時間を使う人、家事や家業と両立させるための工夫を知り、同じことに悩んでいるんだなと思ったり。今では相談できる仲間に囲まれています。
気持ち悪いけど可愛い、キモカワイイ、キモキモ、そして携帯電話の時代にひらがなを変換する際の数字をとって、独立した当初のブランド名は学生時代から使っていた「kimokimo382」。いすみ市に来てからはあらためて「sayasaya」を名乗っています。
そのネーミングとブランディングには、PR動画を製作したさやかさんの夫が一役買っています。動画はファッションショーのような見せ方を避けて、地元の景色を背景にデザイナーが表現したい世界観を伝えながら、モデルの顔をはっきりさせないことで服を印象付ける効果を狙っています。
作り手と使う人の距離が近い
いすみに移り住んでから、関西で展示会を開いたことを知った地元の人から注文が入るようになりました。
「東京にいたら、”春夏コレクションのあとは秋冬コレクション” という毎年の繰り返しに追われて、会社勤めだった頃とあまり変わらない働き方をしていたと思う」というさやかさんのお客様は、ファッションブランドsayasayaが表現する世界、服飾に対する考え方が気に入って注文する人。
一方では、既製服の標準体型とは一致しない人にも、喜ばれているといいます。たとえば、年配の小柄な方が子ども服を見て気に入ってしまい、チュニックとして着られるように直したこともありました。
そんなふうに sayasayaブランドは「会って、しゃべって、そこから生まれるデザイン」を大切にしています。
子どものワンピースが1万9千円からなので高価だと言われることもありますが、オリジナルデザインの一点ものをパターンから手作りする価値をわかってくれる人もちゃんといて、外房ではそういうお客様と盛んに催されるマーケットで直接話が聞けて、顔の見える関係を楽しんでいます。
そして、型にはまったデザインよりも曲線を縫うのがさやかさんの好み。
「ミシンをかけるのも楽しいし、着心地もいい」と「曲線」の良さを確かめるように話してくれました。
オーダーメイドのほか、基本のパターンからのセミオーダーもあり、洋服以外にもポーチや髪飾りなどの小物、デニムのパッチワークを使ったバッグも揃えています。
手打ちうどんの道具一式が入る大きな袋のオーダー、飲食店のスタッフがお揃いで身につけるエプロンの製作など、仕事の幅が広がっています。
ホフホフしながらマーケット
大原海岸に近いコワーキングスペース hinodeを手伝っていたご縁がつながり、今年の夏には4回目になるホーフ市(いち)というマルシェを主宰、地域の魅力発信や創業の場づくりとして開催しています。参加店舗は30店舗ほどで、sayasayaも参加店舗として出展。
広い芝生の敷地はふだんから子どもたちや家族連れが集まる場所。マーケットプロデューサー・オーガナイザーの市場明子さんに協力をあおぎ、それまで経験のなかったマルシェを開いてしまう行動力は、独立ブランドという目標に向けて、実現させたさやかさんならでは。
そんな中で 興味を惹かれたのは、古着をほどいた生地を素材として採用したデザインです。
いまあるものを生かす服作り
このとき着ていた服も、そのひとつ。地織り模様に大きめな柄のプリントというぜいたくな生地とそれにあわせたアクセント、ボタンホールがある部分をそのまま使い、色合わせのコントラストも気が利いています。
色彩について聞いてみると、「昔から独特だと言われていて、系統だった勉強はあえてしていません。頭で理解してしまうことで個性が損なわれるのは本意でないので」といいます。
「sayasayaはナチュラルでかわいいイメージのブランド。私自身もそういう人だと思われがちですけど、本当は違う。キツイし頑固だし、ゴチャゴチャしたのも好き。洋服だってシンプルなだけじゃなくてもう少しふざけてもいいのでは?と思っています。」
たしかに「感性を大切にしたいから、いわゆる『勉強』はしない」というのは頑固でなければ言えないことでしょう。
デザイン画を描いてパターンをひいてもその通りにはならないのは「こうしよう」と思わず、手元にある布地を使って組み合わせる手法だから。
もともとコラージュが好きだったさやかさんにとっては、限界がある中で表現に挑戦し、一人でパフォーマンスライブを演じるような楽しさがあるそうです。そして、用意された生地から作るよりも、時間と手間をかけることができます。
最近のマイブームは、べんがら染。染色教室に参加して知った魅力は、難しく考えていた染色のハードルが低いこと。作りたい色で作りたい量だけ作れることです。
新しいステップへ
今は、思い描いている事業規模の十分の一かもう少し、という段階ですが、将来的にはもっと大きく展開していきたいと考えているそうです。お話をお聞きした前日も、東京で展示会をまわってきたばかり。
「自宅だとお客さまにふらっと来てもらうことは難しいけれど、知らない人にも、商品を手にとって見てもらえるスペースを作ろうと計画中です」。
今年1月、いすみ市主催のイベント『空き家リノベキャンプ』に参加。その時に出会った仲間とともに、元郵便局でオープンスペースに併設するsayasayaの工房のプランを発表、実現に向けて動き始めました。
実店舗の候補となっている不動産物件の近くには偶然にも半年前に閉鎖した縫製工場があったといいます。「縫製工場があったということは、手に職を持った人が近所にいるはず。高齢化は進んでいるものの 今ならまだ間に合うかもしれない」とさやかさんは考えました。
「衣」食住
どの街にも繊維街のような生地屋さんがあり、オーダーメイドが 日常に根ざしていた頃、洋裁を仕事にしている人を探すのに困ることはありませんでした。
「お仕立ての洋服」は、受注生産だからこそ可能な、廃棄率の低いしくみとして存在していたのです。
さらに昔には、衣類としての役目を終えた布を細く裂いて裂き織りにする文化があり、少し昔にも、セーターはほどいて蒸して癖を直してから毛糸玉を作って編み直し、虫食い穴はかけはぎの技術で見えなくなるような精度で修理していた時代があり、そこに生きていた、モノの命を最後までまっとうさせようとする心の持ちようは、もはや忘れ去られようとしています。
さやかさんも、既成ブランドの魅力をよく知っています。また、だれもが手に入れやすいファストファッションをまったく否定しようとしているわけではないでしょう。
「『衣食住』という言葉があるけれど、食や住に比べて衣に対する意識は遅れている。衣服のあり方についてはどうなんだろう?」
さやかさんは、購入後のメンテナンス、汚れや破れなどの修理が可能な商品を通じて、モノの大切さを伝え、愛着を持って長く着てもらえるような服作りに取り組みながら、
このように問いかけます。
印象的なお客様は?と聞くと、「親子で同じ生地を使って注文服を作ってくれた人」と答えてくれました。
sayasayaの作品や、家庭にあるものを生かした服を身にまとう人々が街角を行き交う日常を想像してみます。
すると、既製服の洪水に沈むことなく、力むことなく、たゆたうようにあり続けるsayasayaというブランドが、大きく羽ばたく日もそう遠くはないような気がしてきます。
それはつまり、お客様に恵まれ、愛されるsayasayaとデザイナーさやかさんの力であり、いすみという地域が、たくさんの手作り仲間、起業仲間がそれぞれの志とともに確かにあり続ける豊かさのあかしでもあります。
お話を聞きながら、ここでなら、目指すところと今ある形のすき間にある焦りやあきらめも小さく少なくなるのでは? と思いました。
オノマトペとsayasaya
さやかさんは、日本語が他の言語よりも豊かにそなえている擬音、擬態を表すオノマトペ が昔から好きだったのだそうです。
ホーフ市のホーフからは「抱負」「豊富」という意味だけでなく、わくわくするような「ホフホフする」感じが伝わってきます。
そこに行けば、ピカピカに光るさやかさんが「ほっほっほっほふ、ほふ」っと笑顔いっぱいで、着る人に出会って初めて生まれるデザインとともに待っていてくれることでしょう。
もしも気になったら 東京から外房線で70分、 大原海岸のすぐそばで開かれるホーフ市(http://houfu-ichi.info/)にふらっとでかけてみてはいかがでしょうか?
written by 斎藤美冬(Local write#08いすみ参加者)
interview photo by 磯木淳寛
◆開催パートナー・地域の募集◆
『ローカルライト』は、3泊4日で行うインタビューとライティングのワークショップです。参加者はインタビューとライティングについて学び、まちに触れ、人を知り、仲間を作り、最終的に原稿を仕上げていきます。これまでに、関東、関西、北陸、九州(2019/6月時点)で開催してきました。
まちにとっては取材対象とまちそのものを公報し、開催地と縁のある人を増やすという側面があり、参加者にとっては地域での暮らしや仕事を知り、書き手としてのスキルを育むという側面があります。
たとえば、「外部の目線で地域を発信したい」「webマガジンで公報したい」「地域の刊行物を作りたい」「地域の食に光を当てたい」というニーズがあり、開催に興味をお持ちの方は、ぜひこちらからお問い合わせください。※半日からのワークショップも可能です。主催される地域の方の参加ももちろんOKです。
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次回の開催等をこちらのfacebookページでも告知しますので、どうぞご確認ください。