「移住も起業もやってみたい」。それなら今すぐ〝好きなこと〟で生きてみませんか?千葉県いすみ市の「Flower&Herb Broom香房」東山早智子さんのお話。

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2017年11月23日(木)~26日(日)に開催された、『LOCAL WRITE~房総いすみの物語を編む4日間~』の参加者によるインタビュー原稿を掲載しています。
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written by 能城里沙子

「移住」って、そもそも何だろう

「いつまで東京にいるの?」「一生東京で働きたいですか」。

そんなキャッチコピーで地方への移住を促すメディアが増え、〝移住〟という言葉が、流行語のように世間を賑わせています。最近では、移住者を紹介するテレビ番組やインターネットサイト、専門誌までできるほど。

国の政策のひとつとして地域おこし協力隊という制度も始まり、これまで4千人もの若者を地方に送り込んできたほか、地方自治体による、移住者を呼び込むためのPRや補助金合戦も年々加熱しています。

そもそも〝移住〟という言葉は、日本から海外へ移り住む場合に使われていたはずで、国内の転居であればそれは単なる〝引っ越し〟のはず。〝移住〟という言葉が、地方で暮らすことへのプレッシャーとハードルを押し上げている気もします。

だからこそ今、〝移住〟をした人のリアルを知りたくないでしょうか。今の移住ブームの10年以上も前、2004年に神奈川県の愛川町へ、そして2013年に千葉県いすみ市へと2度の移住、そして起業を経験した女性、『Flower&Herb Broom香房(こうぼう)』の東山早智子さんにお話を聞いてきました。

東山 早智子(ひがしやま さちこ)さん

山口県周南市出身。東京、広島、神奈川での生活を経て、現在は夫とふたりで千葉県のいすみ市で暮らす。花とハーブの庭とアトリエSHOPを開き、ハーブやアロマ、植物全般に関するワークショップや寄せ植え、苔玉、リースなどの作品づくりも行う。屋号の『Flower&Herb Broom香房(こうぼう)』のBroomは東山さんの誕生花であるエニシダというハーブから命名。

そこにいたのは自然体で飾らない人でした

「この前の台風の塩害で、いまはあんまりハーブがなくてごめんなさい」そう言ってはにかむのが、今回お話しを伺った東山さんです。

取材をした場所は、現在の住まいがある千葉県いすみ市。房総半島の東側に位置し、春がくればいすみ鉄道沿線に菜の花が咲き乱れる農村の穏やかな景色と、秋になると年に一度の祭りで町中が熱気にあふれる漁師町の一面をもつ、ちょっと不思議な町。

そんな町で東山さんは『Flower & Herb Broom 香房』という屋号を持ち、ハーブの生育と販売、植物全般のワークショップを行っています。  

ハーブとの出会いと、長かったマンション生活からの脱却

東山さんの小さな手いっぱいに広がるハーブ。

東山さんとハーブの出会いは20年以上前。イベント企画会社で働いていた当時、最後の仕事として任されたのがハーブの展示会。ハーブの面白さと奥深さに気づき、どんどんのめり込んだそう。

そこからの展開は早く、最初は当時住んでいた場所の地域センターでハーブ石鹸づくりなどの簡単なワークショップを開くようになります。これが『Flower & Herb Broom 香房』の幕開けです。1998年のことでした。

気づけば教室とお店を持てる家を探し始め、見つけ出したのは神奈川県愛川町にある築250年の古民家。これが夫婦にとって初めての移住となりました。

古民家の改装をするのもハーブガーデンをつくるのも、すべて自力。東山さんがガーデンの整備を、木工の仕事をしていた旦那さんは家の修繕に奮闘していました。そうしている間にお客さんは徐々に増え、気が付けば何かと忙しい毎日を送っていたふたり。

その中で芽生えた気持ちは、「もっと広い庭があるところに引っ越したい」というもの。愛川町に移住してから約9年、夫婦は2度目の移住を決意します。

地方から地方へ2度目の移住。千葉県いすみ市へ。

いすみ市の春は新緑に染まる。

そして次に夫婦の拠点となったのが、現在の住まいのある千葉県いすみ市。ふたりが探した中で〝一番ピンときた場所〟。ここからさらなる挑戦が始まります。

まずは愛川町から約1年半の間毎月通いながら庭をつくり、余裕があるときにショップとテラスの設営を行いました。こうした準備期間を経て、夫婦が正式に暮らしの拠点を移したのは2013年のことでした。

イングリッシュガーデンではなく、里山ガーデンを作りたかったんですよね。

東山さん曰く、里山ガーデンとはその土地の自然と共存するガーデンのこと。お話のとおり、ガーデンのすぐ後ろには竹林があって、目の前にはちょっとした水辺もある。カワセミなどの鳥類もこの場所にはよく現れるそう。けれど決して良いことばかりじゃないのが〝移住〟です。

愛川町にいた時と違って苦労もあったそう。それは『土』の違い。千葉の土は粘土質で、神奈川では普通に育っていたものがここでは枯れてしまい、最初は驚いたといいます。ハーブ屋である東山さんにとっては、一大事でした。

ここで育つものを育てていけばいいのかな。その土地にあっていることをやっていかないと。

これはインタビュー中に東山さんが何度か口にしていた言葉です。この柔軟性とポジティブさが、移住先で適応するための秘訣なのかもしれないと、考えさせられました。

芋づる式に、地域との関係性の輪が広がっていく

東山さんのガーデンで行われたマルシェの様子。

さて、ここからが本題。聞いてみたかったのは、いすみ市でどのように生活をしているか。普段の暮らしは?仲間はいるの?ということ。
「いすみのことは全く知らなかった」という東山さんが、どうやって今の暮らしを築いているのか、率直に聞いてみました。

――いすみ市では、どのように地域との関係性を築いてきましたか。

ここに移住する前に、『いすみライフスタイル研究所』(通称いラ研)というまちづくりNPOに何度か相談に行きました。こちらに来てからも、いラ研主催のイベントに参加させて頂いたりして、本当にお世話になっていましたね。

――東山さんにとっていラ研は、いすみのキーパーソンのような存在だったんですね。他にも、知り合いを増やすためのきっかけはありましたか。
 
いすみって横のつながりが強いんです。同じように個人でやっている作家さんひとりと知り合うと、そこから芋づる式に輪は広がっていって、いろんなマーケットに出店するようになりました。イベントの企画家が多いなって思っています。

――愛川町では、そういった関わりはあまり無かったですか。

向こうでもつながりはありましたが、それは点のつながりでした。こっちは輪でつながっている感じ。ここは同じような考えの人が多くて、ひとりと繋がるとみんなと繋がる。新しい人が入ってきても、それは同じですね。

――実際につながりを感じたエピソードはありますか。

いすみ市には海があるので、サーファーが多いんです。私はサーフィンに全く興味がないから、今後も関わることはないだろうと思っていたけど、ふとしたことからサーフショップのオーナーと繋がって。
そして気が付けばお店でワークショップをやらせてもらっていました。その時のお客さんとの関係は今も続いていて、自分の工房にも遊びにきてくれます。なんか不思議ですよね。

――今後の目標を教えてください。

この場所に決めたとき、『疲れた人や癒されたい人にハーブに触れてお茶を飲んで、心を落ち着けて帰ってもらえるところになればいいな』って思ったし、そういう人が少しずつ増えてくるとうれしいです。
あとはもう少し『土』に触れるワークショップも増やしたい。何かをまた、年間通してやりたいなって思っています。

房総半島の中でもいすみ市は、東山さんのように移住をしてきて、いわゆる〝小商い〟をしながら暮らす人が多く、毎週のように各地で開かれているマーケットを見ると、本当にその結束力の強さを感じます。

また『いラ研』のような民間の移住相談窓口も、近隣の市町村にはまだ存在しないので、こういったNPO法人が活動しているということも、移住してくる人たちを受け入れる大きな器になっているのかもしれません。

起業した感覚なし!?「植物を育てながら遊んでるんです」

東山さんの人柄がそのままにじみ出たような看板。

そしてもうひとつ気になるのは、仕事のこと。女性がひとりでハーブ屋をはじめ、それを20年も続けることは、相当大変なことですよね。疑問をぶつけると返ってきた答えは意外にも「起業したって感覚は、全くないんですよ~」とあっけらかんとしたもの。

東山さん曰く、最初に地域の施設を借りて行っていたワークショップから、延長線で進んできた感覚なんだそう。とは言いつつも、植物園のハーブ専門コースに通ったり、東京でアロマオイルやメディカルハーブなどの薬効を学んだりと、そこには並々ならぬ努力がありました。

何もかもひとりで行っているにも関わらず、リース作りや染め物などのクラフト系のワークショップはもちろん、アロマオイルやメディカルハーブなどの知識を生かした化粧品やオイル作り、しまいにはハーブを使った料理教室まで開いているというから驚かされます。

季節や来てくれるお客さんに応じて、東山さん自身も勉強を重ね、様々な企画を行っています。

「育てながら遊んでるんです」。それはインタビューのはじめ、ガーデンを案内してもらっているときに東山さんからこぼれた言葉。
〝稼ぐ〟ということが第一目標ではなく、自分が好きなことをしながら暮らすということに、人生の重点を置いているように思えました。

それは集団の中のひとりとして働いてきた私にはとても新鮮味があり、東山さんの生き方自体がとても魅力的なものに感じました。そして同じような仲間がいすみ市にはたくさんいるというのだから、ますます足を運んでみたくなります。

自分の人生を考えてみよう

東山さんの友人の押し花作家さんの作品『The road to the future』。

東山さんのように、好きなことを仕事にしたい人は、たくさんいると思います。
ちょっと考えてみれば、それはきっと東京でもできるはずです。だってそもそも東京の方が便利で生活しやすいうえに、相手(お客さん)がたくさんいるから。

でももしかしたら、ここいすみ市は、自分と同じような考えを持つ人を見つけやすい場所なのかもしれません。そしてそれがライバルという形ではなく、仲間として支えあうことのできる不思議な輪ができていくからです。

お金を稼ぐことを目的に働いてもいいし、好きなことを楽しむことに重点をおいてもいい。東京で暮らすことも魅力的だし、地方で暮らすのもまた面白味がある。どっちを選んでも間違いじゃないし、素敵なこと。

でもせっかく一度きりの人生だから、『本当に自分に合う暮らしって何だろう』って探してみるのはいかがでしょう?この町には、新しい発見と、それを受け入れてくれる仲間たちがいるかもしれません。

written by 能城里沙子(Local write#06いすみ参加者)
photo by 磯木淳寛

◆開催パートナー・地域の募集◆
『ローカルライト』は、3泊4日で行うインタビューとライティングのワークショップです。参加者はインタビューとライティングについて学び、まちに触れ、人を知り、仲間を作り、最終的に原稿を仕上げていきます。これまでに、関東、関西、北陸、九州(2018/1月時点)で開催してきました。
まちにとっては取材対象とまちそのものを公報し、開催地と縁のある人を増やすという側面があり、参加者にとっては地域での暮らしや仕事を知り、書き手としてのスキルを育むという側面があります。
たとえば、「外部の目線で地域を発信したい」「webマガジンで公報したい」「地域の刊行物を作りたい」「地域の食に光を当てたい」というニーズがあり、開催に興味をお持ちの方は、ぜひこちらからお問い合わせください。※主催される地域の方の参加ももちろんOKです。

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